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津地方裁判所 昭和27年(ワ)99号 判決

原告 五百田武節

被告 株式会社滋賀銀行 外一名

一、主  文

被告木根は原告に対し金九万八千六百十八円及びこれに対する昭和二十八年六月二十一日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分しその一を原告、その一を被告木根の負担とする。

この判決中原告勝訴の部分に限り原告において金参万円の担保を供するときは仮にこれを執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は被告等は各自原告に対し金九万八千六百十八円及びこれに対する被告銀行は昭和二十八年六月二十日以降被告木根は同年同月二十一日以降右完済に至る迄年五分の割合による金員を支払うべし、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並に担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十三年十一月以来訴外日本生命保険相互会社の社員として勤務していて昭和二十四年五月から昭和二十六年三月まで阿山営業所長を勤め、被告木根は昭和二十一年五月頃被告銀行に入社し昭和二十五年十一月まで大阪支店及び上野支店に勤務していたものであるが原告は昭和二十五年八月十日頃かねて知合の当時被告銀行上野支店の貸付係をしていた被告木根から被告銀行に金十万円の福寿定期預金をするよう勧められて承諾するや更に同被告より同支店はその重要な得意先からの懇望によつて限度外に金十万円を貸付けたいから原告において右定期預金を担保にして被告銀行から金十万円の手形貸付を受けた上その金を被告銀行の名義で右得意先に貸付けるようにしたい旨懇請され原告は同被告をその地位はもとより勤勉実直な行員として心から信用していたのでその懇請を容れ被告木根に原告の印顆、被告銀行に対する金八万五千円の預入残高記載ある原告名義の普通預金通帳及び現金一万五千円を預けて所要の手続をとることを委任した。しかるに被告木根は当初より真実被告銀行の得意先に対して貸付をなす意思も目当もなく自己の横領行金の穴埋に使用する目的を以て同月十二日原告の被告銀行に対する普通預金勘定から金八万五千円を引出しこれに原告から預つた現金一万五千円を合せて同日原告名義で被告銀行に金十万円の福寿定期預金の預入をなした上更に之を担保に同日附原告名義振出被告銀行宛金額十万円の約束手形一通を作成してこれを被告銀行に差入れて原告名義で被告銀行から金十万円の手形貸付を受け右金員に対する同日以降六十日間日歩二銭三厘の割合による先利息金千三百八十円及び前示約束手形貼用印紙代金二円を差引いた金九万八千六百十八円を受取りその頃同被告が横領した被告銀行の行金の穴埋に費消し原告に同額の損害を蒙らしめたから被告木根は右不法行為上の責任として原告に対し右損害金九万八千六百十八円を賠償すべき義務がある。

次に被告木根の前叙不法行為は被告銀行上野支店の貸付係の地位に在つた同被告が被告銀行において顧客に限度外貸付をなす資金に利用するとて原告に被告銀行より金十万円の手形貸付を受けしめたものであるから右は同被告が被告銀行の業務執行につきなしたものというべくその使用者たる被告銀行にも亦右不法行為に基く原告の損害を賠償する責任がある。

よつて被告両名に対し夫々右損害金九万八千六百十八円及びこれに対する本訴状送達の翌日である被告銀行は昭和二十八年六月二十日以降、被告木根は同年同月二十一日以降右完済に至る迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶと陳述し、被告等の答弁に対しその主張事実はすべて否認する。尤も被告等主張の如く被告木根が被告銀行を解雇せられて後昭和二十六年一月下旬から同年二月中旬迄訴外日本生命保険相互会社上野支店所属の賛助員として原告と共に働いていたことはあるが右期間中同被告の勧誘によつて成立した生命保険契約は上野市久米農業協同組合長某に対する保険金額三十万円のものと上野市川口某に対する保険金額五十万円の二口で原告は同被告に右に対する所定の手当(保険金額に対する千分の五)計金四千円を交付しておりそれによつてなんら被害金額の補填を得ていない。又被告木根は既に昭和二十四年三月頃より被告銀行に雇われていた間引続き上野市丸之内の情婦の許に入浸つて麻雀や飲食遊興に耽り同女の許から通勤し果ては借財に窮した結果被告銀行の行金を横領したにも拘らず被告銀行は長期間右横領の事実を発見し得なかつたものであつて被告銀行は被告木根に対する選任監督につき相当の注意を尽していたものとはいえず被告木根の使用者としての責任は免れ得ないものであり一方原告においては被告木根が被告銀行を解雇せられるまでは同被告の前叙の如き不行跡や行金横領の事実は全く知らず勤勉実直な被告銀行の行員と信じ込んでいたのであつて原告には何ら過失はないのであると述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、被告木根の答弁として原告主張事実中原告及び被告木根の職歴が原告主張の如くであること、被告木根が原告よりその主張の日その主張の如き普通預金通帳現金一万五千円及び原告の印顆を受取り原告名義で被告銀行に金十万円の福寿定期預金をなした上之を担保として原告名義で被告銀行より金十万円の手形貸付を受け先利息等を差引いた金九万八千六百十八円を受取つたこと、被告木根が被告銀行の行金を横領したことは認めるがその他の事実は否認する。被告木根は昭和二十五年五、六月頃始めて原告を知り爾来屡々麻雀や飲食遊興を共にして親交の度を加えていたところ同年七月下旬頃原告より高利(日歩五銭位)貸付の依頼を受けたがその頃被告銀行では福寿定期預金の勧誘の時であつたので原告に右預金方を勧め金十万円の定期預金をすることの承諾を得、更に当時同被告は遊興飲食等のため相当の借財をなしその返済に迫られていたので原告に懇願して原告が右預金を担保として被告銀行より金十万円の手形貸付を受けた上その金員を同被告において日歩五銭期間の定めなく借用することとなり同被告が原告に代つて原告主張の如く所定の手続をとり原告名義で被告銀行より金十万円の手形貸付を受けて右金員を借用したものであつて詐取したものではなく右借用当初の同年八月中旬に原告に日歩五銭の割による利息を支払つている。その後も同被告は引続き利息を支払う予定であつたがたまたま行金横領事件が発覚して被告銀行を解雇されるに至り利息も支払いかねて原告に事情を話したところ原告も詮方なしとして許してくれその勧めにより同被告は原告の勤務先なる訴外日本生命保険相互会社上野支部で勤務することになり賛助員の名目で原告の助手として同年十一月から翌昭和二十六年二月頃まで勤務しその間同被告の努力により七、八人の保険契約を獲得したが原告からは僅かに金千五百円の手当を受けたのみでその余の報酬、給料等はすべて右借用金の弁済に充当したのであるが同被告としては同一市内で同じ金融関係の仕事をするのは良心的に苦痛であつたので昭和二十六年二月頃原告にその心境を述べて会社をやめ大阪方面で働きたいが借用金をすぐには返済できないから弁済を猶予して貰いたい旨申出でたところ原告は同被告に対し原告が曩に被告銀行より手形貸付を受けるため振出した約束手形は被告銀行が他に限度外貸付をなすためのもので原告に責任なき旨の書面を差入れるなら責任は免除すると右書面の差入を求めたので右は虚偽のことではあつたが同被告は已むなく原告の要求通りの事実を記載した書面を原告に差入れて原告に対する右債務の免除を受けたのである。仮りに然らずとするも原告被告木根間の本件給付は原告が被告銀行より金十万円の手形貸付を受けその金員を原告のため被告銀行の行員である被告木根において高利で他に貸付けるため給付したもので即ち貸金業の取締に関する法律第十五条第一項違反のいわゆる浮貸を目的としなされたものであるから原告は被告に対し右による損害の賠償を請求するを得ないと述べた、

被告銀行は被告木根と同様の答弁をなし(但し被告木根の手形貸付金受領の点は不知)更に、仮りに被告木根が原告主張の如く原告を欺罔して定期預金をなさしめ更に之を担保にして手形貸付を受けてその貸付金を受領したとするも原告において前示の如く被告木根に浮貸をさせるためその資金入手の手段として右預金及び貸付を受けしめたものであるからかかる浮貸はもとより被告銀行の業務にあらず被告木根の右行為は民法第七百十五条の業務の執行に該当せず被告銀行には何等責任がない。仮りに原告木根の行為が被告銀行の業務執行に関するものとするも被告銀行としては被告木根の就職以来その人物、手腕等を慎重に視察判断し模範青年行員としてその将来を嘱望していたのであり同被告の成績も良好でその担当する業務の取引先からも同人の素行業務に関し一言の非難もなく却つて賞讃されていた位で同被告が行金横領等の不正を働くことなどは到底考えられなかつたことでもあり殊に本件の手形貸付等の手続にも一点の過誤もなく被告銀行において被告木根の不法行為を当時発見することは全く不可能なことであつて同被告の選任監督には十分なる注意をなしていたものであるから被告銀行には被告木根の本件不法行為による原告の損害を賠償すべき責任はない。仮に被告銀行にも責任があるとしても原告は被告木根が麻雀賭博をやり身分不相応の飲食遊興をしていることを知りながら被告銀行に照会することなく被告銀行が限度外貸付をするためであるとの被告木根の言をたやすく信じて同被告に預金通帳及び印鑑等を長期間預けるが如きは原告の年輩、経歴、職業からみて原告に重大な過失があつたものというべきであるから過失相殺を主張するものであると述べた。<立証省略>

三、理  由

原告は昭和二十三年十一月以来訴外日本生命保険相互会社の社員として勤務していて昭和二十四年五月から昭和二十六年三月まで同会社三重県阿山営業所長の任にあり被告木根は昭和二十一年五月頃被告銀行に入社して昭和二十五年十一月まで同銀行の大阪支店及び上野支店に勤務していたものであること、昭和二十五年八月十日頃被告木根が原告よりその印顆、原告名義の被告銀行に対する金八万五千円の預入残高記載ある普通預金通帳及び現金一万五千円を受取り同月十二日原告名義で原告の被告銀行に対する普通預金勘定から金八万五千円を引出しこれに原告より預つた現金一万五千円を併せて被告銀行に金十万円の福寿定期預金をなした上更に之を担保として同日附原告振出被告銀行宛金額十万円の約束手形一通を作成しこれを被告銀行に差入れ原告名義で被告銀行から金十万円の手形貸付を受け右金員に対する先利息金等を差引いた金九万八千六百十八円を受取つたこと(但し被告銀行との関係においては右金員受取りの事実は被告木根本人訊問の結果によつて認める)は当事者間に争いがない。よつて先ず被告木根に対する請求につき按ずるに成立に争のない甲第二号証、同第八号証の二(一部)同第九号証の二、同号証の三(一部)原告名義の印影につき争なく爾余の部分は被告木根本人訊問の結果によつて成立の認められる乙第四号証及び同第六号証の一、被告木根本人訊問の結果によつて成立の認められる乙第六号証の二、三、四の各記載に被告木根本人訊問の結果(一部)及び弁論の全趣旨を綜合すると被告木根は被告銀行上野支店の貸付係として勤務中昭和二十五年中原告と相知り飲食を共にする等懇意の仲となりかねがね利廻りのよいところはないかと原告から頼まれていたところその頃より遊興飲食等に金銭を浪費し相当の借財を生じて之が措置に苦慮している中当時被告銀行において福寿定期預金消化運動を起し被告木根もその責任担当額を割当られたので之を機に原告より金員を騙取しようと企て同年八月頃原告に対し被告銀行の重要な得意先が限度外にて貸付を受けられず困つているから被告木根においてその者に金十万円を貸したいから融通せられ度いと虚構の事実を申向けその出金の手段として原告に勧めて原告が被告銀行に対する普通預金八万五千円と更に現金一万五千円を提供して金十万円の福寿定期預金をなし更に之を担保にして原告が被告銀行より手形貸付を受けてその金を融通資金にすることと被告木根において之が手続一切をすることの承諾を得前示の如く福寿定期預金及び手形貸付を受けて被告木根が金九万八千六百十八円を受取り之を自己の借財の返済、遊興費等に当て費消したものであることが認められる。被告木根は原告より右金員を借受けたものであると主張するが之に副う甲第八号証の二、同第九号証の三の各記載部分及び被告木根本人訊問の結果は措信できず他に右認定を覆えして被告主張事実を認めるに足る証拠はない。然らば被告木根は原告に右不法行為に因り金九万八千六百十八円の損害を蒙らしめたこと明らかであるから原告に対しこれが損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

そこで被告木根の抗弁中先ず不法原因給付の点につき按ずるに原告は被告銀行の貸付係たる被告木根において他の顧客に貸付けるため被告木根に原告名義で被告銀行より金十万円の手形貸付を受けさせて右金員を入手せしめたものであること前段認定の如くであるから(原告は右貸付は被告銀行名義でなすものであると主張するが此の点に関する甲第九号証の三の記載部分は前顕各証拠に照らし措信できず他に右主張事実を認めるに足る証拠はない)右は貸金業等の取締に関する法律第十五条第一項の禁ずるいわゆる浮貸の目的でなされたものというべく右法条に違反して浮貸をなした場合は三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処せられ右違反行為が公序良俗に反することは論を俟たないから原告の被告木根に対する本件給付は民法第七百八条の不法の原因のためにせられたものといわなければならない。しかしながら前示貸金業等の取締に関する法律違反となるのは金融機関の役職員其の他の従業員たる身分を有する者がなした場合のみであつてかかる身分を有しない原告の右資金交付行為はそれ自体直接何ら右法律違反とならないところ前認定の如く本件給付は原告の教唆慫慂によるものでなく被告木根の申出によるものでしかも被告木根は原告を欺罔して原告をして本件給付をなさしめたものであり高い利廻りを追及する欲望は通常人の克く免れ難いところであるから原告に特段の責を以つて臨むは相当でないと思料せられ原告には民法第七百八条にいわゆる不法の原因がなかつたものと解すべきであるから被告木根は原告に対し右給付の金員或は右による原告の損害の支払を拒絶し得ないものと云うべく右被告の抗弁は理由がない。

次に被告木根の債務の免除を受け、然らずとするも一部弁済したとの抗弁につき按ずるに右主張の副う如き被告木根本人訊問の結果はたやすく措信できず他に右事実を認めるに足る証拠がないばかりか却つて成立に争のない甲第八号証の二、同第十第十一号証の各記載を綜合すると被告等が債務免除或は一部弁済のあつたと主張する日以後に提起された別件の原告本件原告被告本件被告両名間の当庁昭和二十六年(ワ)第一九九号定期預金払戻等請求事件において被告木根は答弁として本件債務の存することを認め(尤も不法行為による債務としてではなく消費貸借による債務として)右事件の被告本人訊問にあいて右債務につき何らその弁済をしていないことを供述していることが認められ被告の右抗弁も亦その理由なく採用し難い。

果して然らば被告木根は原告に対し前叙不法行為に因る損害金九万八千六百十八円を賠償すべき義務を免れ得ない。

次に被告木根の前示不法行為に対する被告銀行の責任について考えてみるに被告木根は前段認定の如く浮貸のためとて原告より資金を受けたもので之が資金入手の途としてたまたま原告の意向通り定期預金及之が担保として手形貸付を受けたものであるが右所要の手続については同被告の内心の意図はともかく同被告の被告銀行の行員としての職務の執行として何ら不法の点なく浮貸そのものが性質上銀行の業務に関するものと云われないから右被告木根の不法行為による原告の損害は被告木根が被告銀行の職務の執行に付き加えたる損害とは認め難い。

然らば爾余の点を判断する迄もなく原告の被告銀行に対する請求の理由なきこと明らかである。

よつて原告の本訴請求中被告木根に対し右損害金九万八千六百十八円及びこれに対する本訴状送達の翌日たること本件記録に徴し明らかである昭和二十八年六月二十一日以降右完済に至る迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容すべきも被告銀行に対する請求は失当として棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西川力一 米山義員 家村繁治)

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